ニャンポ魚

ニャンポうお

やや公共性のあるメモ。泥臭い実験生物学を、ICTの力でちょっとでも効率的にやりたい。

2019年度版、神経科学に関係するノーベル賞受賞者まとめ

気がついたら2019年度のノーベル生理学医学賞がもう出ていたので、便乗というのにももう遅いが、この機会にノーベル賞受賞者一覧でも眺めてみるかという気分になった。

せめて近い分野の受賞くらいはおさえておいたほうがよいのではないかという気持ちで、それらしいページを見てみる。 faculty.washington.edu どういう基準で神経科学関連の受賞だと判断しているのかわからないところもあるが、日本語だとこういうリストがさっと出てこなかったのでありがたい。

下の方にちょこっと載ってるトリビアもちょっと面白い。

受賞者リスト

以下、上記のリストにパブロフと利根川を足したメモ。1977年の同時受賞者であるヤーリーははじかれていたので注意。

受賞年
受賞者
メモ
1904 パブロフ ただし古典的条件付けではなくて消化の研究でもらったらしい。だから上記のページではカウントされてない。
1906 ゴルジ
カハール
言わずもがなの大物ふたり。神経系の網説とシナプス説。
1911 グルストランド 眼科の研究
1914 バーラーニ 内耳系の研究
1927 ヤウレック 麻痺性認知症に対するマラリア寄生虫接種の治療効果を示したことについて。なんのこっちゃという感じだが、無理やり高熱を出させることで原因である梅毒トレポネーマを死滅させるという荒療治らしい。
1932 シェリントン
エイドリアン
シナプス命名、脳波測定の確立、陰極線オシロスコープの使用による興奮の減衰説など
1936 デール
レーヴィ
アセチルコリンとアドレナリンをそれぞれ発見
1944 アーランガー
ガッサー
陰極線オシロスコープによる活動電位測定
1949 ヘス
モニス
前者は間脳の機能マッピング、後者は悪名高いロボトミーの開発
1957 ボベット ヒスタミン薬などの開発
1961 ベーケーシ 内耳蝸牛における刺激の物理的機構の発見。どうも後世の研究で覆った部分があるらしいが、まだきちんと理解できていない。
1963 エクレス
ホジキン
ハクスレー
活動電位の発生メカニズム。分子生物学で言えばワトソンとクリックくらいの業績?
1967 ラニ
ハートライン
ワルド
視覚の電気生理と化学
1970 カッツ
オイラー
アクセルロッド
ノルアドレナリン神経伝達物質としてのふるまい
1973 ローレンツ
フリッシュ
ティンバーゲン
動物行動学とか生態学の人もリストに入ってるのか~。
1976 ブランバーグ
ガジュセック
前者はB型肝炎ウイルスの発見とワクチン開発、後者はプリオンの発見に対する貢献
1977 ギルマン
シャーリー
ペプチドホルモンの同定
1979 ハウンズフィールド
コーマック
CTの開発
1981 ヒューベル
ウィーセル
スペリー
前者ふたりは視覚系での傾き検出、後者は分離脳研究。スペーリーはヒヨコをすりつぶす思考実験で有名なポールワイスの弟子で、網膜視蓋投射のトポグラフィックマッピング研究も大きな業績。
1986 モンタルチーニ
コーエン
NGFの発見
1987 利根川 免疫グロブリンの遺伝子再構成。これ自体が神経科学の業績とはいいがたいが、のちに神経科学分野に転身し、CKOマウスを使った記憶研究やプレプレイの発見など、大きな成果を挙げている。
1991 ネーアー
ザクマン
パッチクランプを開発し、それにより単一イオンチャネルの機能を解明したことについて。
1994 ギルマン
ロッドベル
Gタンパクを介したシグナリング経路の解明
1997 プルシナー プリオンの発見。1976年のガジュセックはクールー病の記載だけで発見と命名はしていない。
2000 カールソン
グリーンガード
カンデル
ドーパミン、CREB。カンデルは神経科学分野で最もポピュラーな教科書、Principles of Neural Scienceを編纂している。もうしばらく新版が出ていないが……。
2003 ラウターバー
マンスフィールド
MRIの開発
2004 アクセル
バック
嗅覚受容体遺伝子の同定*1*2
2013 シェクマン
ロスマン
スードフ
小胞輸送の研究
2014 オキーフ
モーセル夫妻
場所細胞の発見、シータ位相差による場所符号化の解明
2017 ホール
ロスバッシュ
ヤング
概日リズム形成遺伝子のスクリーニング

眺めてみての感想

医学分野は全然知らない人がけっこういて驚きがあった。

当然だけど、それこそニューロンの予言からはじまって、次第に高次機能の理解へとつながってゆく過程がなんとなく見てとれる。研究が行なわれていた年代と受賞にはずれがあるのと、一直線の進歩ではもちろんないことを差し引いても。

オプトジェネティクスやDREADDのような操作実験の手法が近いうちにとるかは、まだちょっと微妙なラインかもしれないとこれを見てなんとなく思った。

*1:逸話 http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/biological-chemistry/profile/essay/essay04.html

*2:主要論文 : Buck, L., & Axel, R. (1991). A novel multigene family may encode odorant receptors: a molecular basis for odor recognition. Cell, 65(1), 175-187. https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/0092-8674(91)90418-X